芋と炎

今週のお題「いも」





全員、芋を洗うのに忙しい。


次から次へと運ばれてくる土のついた芋を洗い、運送業者の車両に運び込む作業が続く。

誰も手をとめる余裕がない場面だ。カゴを抱えて大勢が走り回っている。
屋根はあるが、半分屋外のような作業場。




そんな慌ただしさのなか、ベテランが事務所のドアからでてくる。手には火を灯したロウソク。それを作業台の上に置いた。


そして何をいうかと思えば、

『このロウソクの火はとても大切です。貴重なものです。決して消えることのないように、よくよく気をつけるようお願い致します』 と。




え、それ、いま? と大半は内心で悲鳴をあげた。

大切ならこんな風吹いてる場所にもってこないで……!?!



ほぼ全員の心の叫びだ。

                                                                                                          • -

誰もが無言のまま。



芋は次々に出荷されていく。
一体誰がこんなに芋を必要としているのだろうと考える暇もなく。


そんななか、真面目な若手が忘れないように頭のなかで繰り返していた。



このロウソクの火はとても大切です。貴重なものです。決して消えることのないように、よくよく気をつけるようお願い致します。このロウソクの火はとても大切です。貴重なものです。決して消えることのないように、よくよく気をつけるようお願い致します。このロウソクの火はとても大切です。貴重なものです。決して消えることのないように、よくよく気をつけるようお願い致します。







ロウソクの炎が、風で揺れた。










f:id:JPwang:20200204202215p:plain