今週のお題「もしもの備え」
川の対岸から、誰かに向かって叫ぶ声。
声に気づいて振り返る女性。
あら、あれ、私の息子だわ、と気づいて手をふった。
「お母さん!これ忘れてるよ!あれも忘れてる!」
「もういいの! いらなくなったから!」
「ほら、節約して、たくさん貯金してたよね?! 持ってかないの?!」
「あんたが使えばいいわ!」
「思い出も!」
「それも置いてくの!」
「え!」
「思い出、あんたが覚えててくれたらいいわ!」
「これからどこに行くの!?」
「よくわからないけど帰ってこないと思う!」
「だめだよ、手ぶらは!」
「なぜ?」
「必要なものいっぱい忘れてってる!」
「必要"だった"ものよ!それは」
「大切なもののはずだよ!」
「もう、大丈夫みたい!」
「途中、なにがあるかわからないよ!それに…!」
「もうなんにもないの! 」と女性ははっきりと伝える。「それに、あんた産まれてくるとき、なにも持ってこなかったでしょ? 必要なのはあんただけだった! それと同じことなの! 」 女性のところに案内人が来る。もう、そろそろ時間ですよ、と手で示している。「じゃあね!」
「……でも!」
「来週、大学のテストよね!?しっかり備えてね!しっかり学んで!そしてしっかり生きてね!」 女性は手をふる。「元気で!!本当に よかった、あなたと一緒にいれたこと!ありがとう。さよなら!ありがとう!」