むかしむかし、郊外の住宅地あるカフェ併設型パン屋では、アンドロイドとニホンザルと浪人生が働いていました。
パンは業者が冷凍にしたものを運んでくるので、それを店のオーブンで焼けば済むシステムを採用していました。
雇われ店長が奥の調理場で黙々と作業を行います。
アンドロイドとニホンザルと浪人生の3人(?)は主に接客を任されていました。
オーナーはその土地の地主の人でしたが、普段は店にはほとんど顔を出しません。
朝のオープン時間になると、いつもの常連さんがやってきます。
口々に「いつもので」と言い、注文したパンとドリンクをのせたプレートを受け取ると、いつも同じ客席にポジション取りをして、いつものお決まりの面子で、ああだこうだと会話をします。
そのあとになると、ポツポツと一般のお客さんも来店します。
同じ接客業務でしたが、3者はそれぞれ微妙に異なる働きをします。
アンドロイドは、人気キャラクターのキティちゃんと同様、表情は一種類しか設定されておりません。でも手足の動作はけっこう多くプログラムされていて、その動きの組みあせでいかにも感情があるような動きを演出します。
また、追加機能としてお客の反応(主に表情)を読み取るセンサーもあり、毎回どの動きが効果的だったのかを蓄積していきました。そしてもちろん会計を一瞬で処理し、お客を待たせることもありませんでした。そのデータはどこかに送信されているらしいのですが、お客の常連さんたち含め、店長もよくわかっていないみたいです。
導入初期こそ常連の老人たちからはしげしげと観察されたものの、しばらくすると「アンドちゃん」と呼ばれるようになっていました。
ニホンザルは以前はどっかの遊園地のショーで働いていたらしく、よく訓練されていたのでいろいろな芸をこなすことができました。パンが焼きあがると、店の前でタンバリンを叩いたり、「反省!」みたいなポーズを真似たりして、集客に寄与しました。また、店内ではホットサンドなどの温め系の注文をテーブルまで届けたりもしました。レジは触るなと店長からしつけられていますのでそれを守ります。おやつにサツマイモをもらうことを至上の喜びと感じているらしいです。
浪人生は、レジで私物のスマホを操作したり、釣り銭の間違いをしたり、テーブル拭きが中途半端だったり、、、、といろいろあり、店長はときどき苦々しく視線をあててきたりもするのですが、常連さんたちからは気に入られている様子でした。「来年は受かるように頑張るのよ」と、それはまるで親戚の子、あるいは孫に声をかけるような。
コーヒーを運んでるときにうっかりバランスを崩してテーブルにいたサラリーマンにかけてしまって怒鳴られたときには、常連さんたちは「あちゃー」という顔をしつつも、あとで浪人生を慰めてあげたりもしました。
シフトは、
アンドロイド×ニホンザル
浪人生×ニホンザル
アンドロイド×浪人生
のいずれかのパターンですが、
一番レジまわりで混雑するのが、浪人生×ニホンザルのパターン。
一番スピードが早いのが、アンドロイド×ニホンザルのパターン。
でした。
なので店長はなるべくアンドロイド×ニホンザルのシフトを好んでいました。
あるとき、アンドロイドの動きが停止しました。ニホンザルが店長を呼びに奥へいきます。出てきた店長に常連さんの一人が声をかけます。「ねえ、アンドちゃん、動かないよ?」
「うーん、今日はちょっとこのままにしておきましょう。わからないですねぇ」と店長。
そこへ予備校帰りの浪人生が昨日スタッフルームに忘れたノートを取りに寄りました。
「すぐエプロンつけてきますね、俺」
(つづく?)
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