そこに何があったか

今週のお題「2020年上半期」





丸い小さなテーブルの上にはコーヒーが置かれている。



他愛ない日常報告をしたあとに、少し間が空いた。


それまでの会話の流れと関係なく、相手は話しだした。




「東京にいて、人に会うとするよね」と相手。

「うん」と私がうなずく。

「今という瞬間、対面してるから、あたかもそれが当たり前なことと思うけど、実はそうじゃないよな、と思うことがあった」と相手。

「……どういうこと?」と私。

「かつて地方都市で暮らしていて、あるタイミングで上京してきたんだけど、つまり、自分なりの選択だったり、状況に流されて、だったりして、いろいろなものがとりあえず決まっていくわけで」と相手は言う。「それはそこに至る以前の年月の中で溜まったものが、自分にそうさせたことになるとは思う」

私は何も言わずに聞いていた。

「で、引っ越しして、環境がかわる。そして何年か過ぎていくと、それなりに楽しいことや飽きることも含めて、毎日が当然のことになる。そしてあるとき気づくのは、まだ1メートルしか進んでいない気分でいたけれど、もう30メートルくらい移動していた」

「30メートル」と私は繰り返した。

「でも30メートル動いたのに、なんら自分は変化した感じもしないし、まあそんなに深刻に捉えてもいなかった」

「30メートルは比喩的な意味だと思うけれど、大きな距離と受け取るべきなんだよね?」と私は確認する。

「おそらく」と相手。「誰かと比較すればそうなんだろうと思う。それが誰なのかはよくわからない」

「意図せずしてそう感じさせる出来事があったわけなんだね?」と私。そう言いながら私は理解する。たぶんそれが話したかったことなのだろうと。

 相手は何も言わずに手にしたコーヒーカップに視線を固定していた。

「大丈夫。とりあえず何かがあったんだということはわかった」と私は言う。「何もなかったわけじゃない」

「上半期が終わるって聞いて、コロナ騒ぎだけで過ぎていった気がしたけれど、そんな単純な人はいないと思った」相手が言う。

 私はうなずく。「新聞の紙面はコロナで大騒ぎだったから」







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